過払い金請求に対して貸金業者が遅延損害金の利率で計算してくる場合の対応

過払い金請求をすると、貸金業者が様々な反論をしてくるケースがあります。
その反論の一つに「途中で返済に遅れがあったので、そこから先は遅延損害金の利率で計算をする」と主張してくることがあります。

この反論は妥当なのでしょうか?このページで解説します。

1.遅延損害金の利率で計算をしてくる場合とはどのような場合か

そもそも、この貸金業者の主張がどのようなものかのおさらいをしましょう。

1-1.過払い金請求をするにあたっての利息に関する知識

最初に過払い金請求をする根拠がどのようなものかを正確に把握しましょう。
過払い金請求とは、2010年6月1日以前に、出資法が利息制限法より高かったとき発生した、法的には払い過ぎとされる利息の部分を取り返す手続きです。

契約者の生活が苦しくなりすぎないように、貸金業者からお金を借りる際に支払うべき利息について、法律で上限が定められています。
上限については利息制限法と出資法の2つで規定されています。2つ法律があるのは、利息制限法が上限利息を超える民事上の効果を無効とするものであり、出資法が上限利息を超える貸付を行う者に対して刑事罰を科すためのものです。

この2つの法律の上限利息は現在では20%ですが、2010年6月1日に改正された出資法が現在の利息に改められるまでは、出資法の上限が大幅に上回っている状態でした(直前までは29.2%)。
貸金業者は、刑罰を受けると営業できなくなるので、出資法の上限を超えることはできない一方、民事上の効力は当事者が争わなければ問題とならないので、利息制限法を超え出資法の上限を超えない範囲で貸付を行っていました(グレーゾーン金利)。

このグレーゾーン金利について、最高裁は無効であり、契約者に返還しなければならないという判決を下しました。
この判決を根拠に、貸金業者に対して請求する金銭のことを「過払い金請求」と呼んでいます。

1-2.遅延損害金の利息で計算するという貸金業者の主張はどのようなものか

過払い金請求は、出資法の上限利息と利息制限法の上限利息の差から生まれます。
例えば、出資法が現在の利息に改正される直前は29.2%が出資法の上限で、一方利息制限法は契約者の多くが10万円以上100万円未満で借り入れをしているため、18%ということになります。

そのため、29.2%で貸付を受けていた場合には、11.2%分がそのまま無効となります。
ただし、利息制限法4条は、支払いが遅延したときの損害について、賠償額の予定を1.46倍まで認めています。
そうすると、上限は29.2%となるのです。

そして、金銭消費貸借契約においては、支払いが遅延した場合に遅延損害金をとる旨を規定しています。
ただし、現実的には多少遅れても貸金業者が常に遅延損害金をとるわけではなく、利息の支払いにおいては従来の利息の適用がされます。

しかし、過払い金請求をした場合には、取引の途中に遅延した部分があった場合には、以後は利息を遅延損害金をベースにした計算をしてほしいと主張するのが、この主張です。
つまり、遅延があった日以降の利息は、上限の18%ではなく、29.2%で計算し、契約利息が29.2%であっても払い過ぎた利息がなく、過払い金の返還に応じる必要はない、と主張するのです。

2.最高裁判所は遅延損害金での計算の主張を認めていない

このような貸金業者の主張に対して、どのように反論をするのでしょうか。この点が争われた最高裁判例があり、最高裁判例では遅延損害金で計算することを否定しました。

2-1.事案の概要

原告である契約者からの過払い金請求に対して、被告である解禁業者が遅延損害金の利率での計算を主張した事件が最高裁判例(平成21年9月11日)の事件です。
なお、この過払い金の計算をした時期の出資法の上限利息は36.5%でした。

この事件において最高裁は、以下のような事実を認定し、貸金業者が遅延損害金での計算をすることについて民法の信義則という根拠を引用して否定しています。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37983

1  上記貸付けに係る契約には、遅延損害金の利率を年36.5%としつつ、期限の利益喪失後も当初の約定の支払期日までに支払われた遅延損害金については,その利率を利息の利率と同じ年29.8%%とする旨の特約が付されていた。

2  貸金業者の担当者は,借主が期限の利益を喪失した約定の支払期日の前に,約定に従えば支払うべき元利金の合計額を下回る金員を支払えば足りる旨述べていた上,貸金業者は,同支払期日の翌日に借主が支払った弁済金につき,これを利息と元本に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を送付した。

3  その後も,貸金業者の担当者は,借主が同担当者に対して支払が約定の支払期日の翌日になる旨告げた際,1日分の金利を余計に支払うことを求め,支払期日の翌日に支払う場合の支払金額として年29.8%の割合で計算した金利と毎月返済すべきこととされていた元本との合計額を告げた。

4  上記(1)〜(3)の貸金業者の対応などにより,借主は,期限の利益を喪失していないと誤信し,貸金業者も,その誤信を知りながらこれを解くことなく,長期間,借主が経過利息と誤信して支払った金員等を受領し続けた。

信義即というのは、民法1条2項に規定されているもので、自分の行いと相反するような主張をすることを認めない民法の原則を定めた条文です。
一般的な金銭消費貸借契約で遅延が発生した場合でも、ただちに期限の利益を喪失して一括請求・遅延損害金の請求をするわけではありません。また、きちんと支払いを再開できれば、元の利息での支払いとなります。

このような場合には契約者は多少遅れたけれども、通常通りの支払いをしていると信じるのが通常で、過払い金請求の段階になって実は期限の利益を喪失して、遅延損害金の利息で計算すべきだったと主張することは、信義則に反すると判断したのです。

2-2.他の貸金業者でも同じように主張することができる

この事件で問題となった貸金業者は、当時のシティズという、現在はアイフルに吸収合併されている商工ローンです。
「他の貸金業者の場合にも同じことが主張できるの?」と思うかもしれませんが、他の貸金業者の場合にも同様の規定・運用となっているので、同じことが言えます。
つまり、貸金業者が遅延損害金の利息での計算を主張する場合には、この判例によってその主張は妥当ではない、と再反論することができます。

3.貸金業者との交渉の仕方

貸金業者に過払い金請求をしたところ、遅延損害金が発生していて、その利率で計算すると過払い金はありません・もっと少ないです、と反論された場合の対応方法を検討しましょう。

3-1.交渉中に主張され平行線をたどる場合には裁判を提起する

まだ貸金業者との交渉中に、遅延損害金の利率での計算を主張してきた場合には、判例でその主張が認められないことを伝えましょう。その結果、貸金業者が主張は通らないと判断すれば、そのまま支払ってきます。

一方で、どうしても貸金業者が主張を譲らない場合には、いつまでのその論点で話し合うのではなく、裁判を提起しましょう。
貸金業者も裁判では通らないことは承知しているので、裁判上の和解交渉においてその主張を取り下げて交渉をすることも可能です。
また裁判を起こしたほうが、貸金業者の支払い条件が緩くなるので、より多くの過払い金を得ることができます。

3-2.裁判で主張をしてきた場合には判例を引いて反論をする

裁判を起こして、被告となる貸金業者が、遅延損害金の利率での計算を主張する場合があります。答弁書もしくは2回目の期日以降の準備書面で主張してくることが考えられます。

この主張をしてきた場合には、必ず被告の主張は上記の判例に従って取り上げられるべきではないことを反論しましょう。
この反論がないと、裁判所は争っていないと判断することになり、形式的には被告の主張を取り上げなければならなくなるのが、訴訟のルールだからです。

4.まとめ

このページでは、貸金業者がする反論の一つである、遅延損害金の利率での計算の主張についてお伝えしてきました。

最高裁の判例で否定されているものですが、交渉の当事者が一般人である場合には、このような構成で反論してくることがあります。
他にも様々な理由をつけて過払い金請求に対して反論してくることが予想されますので、弁護士に相談をすることをおすすめします。